エストニアのHackathonで賞を取ったらしい(中)

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僕と日本人の友人のスーパーハカーと、最後ギリギリで僕のチームに加わったエストニア人の女性でこの三日間を翔けることになった。それぞれのチームにそれぞれ作業を進める教室がわり与えられ、それぞれチームごとに散っていく。今回会場として使われたのは市内の大学だったのだが、貸し切った教室がそれほど多くなかったせいか、各チームにつき一つの教室ではなく、僕らも他の1チームと一つの教室を共有することになってしまった。もう一つのチームは8人くらいの大グループで、昼間っからテラスでビール飲んでそうな奴らが楽しそうに自分たちのビジネスの議論をホワイトボードを使って進めていた。真っ白な部屋に、彼らの会話が不協和音を奏で響き渡り鼓膜を濁らせる。その一方で、3人でプロダクト開発、ビジネス準備を進めていかなければならない僕らだった。エストニア人の彼女のチンプンカンプンな話が僕らを困らせたり、なかなか議論が進まなかったりと生産性のない時間も過ごしたが、その混沌とした中でもなんとなくやることが見えてきた。話を進めていくと、彼女は市内のビジネス系の学校に通う学生で、マーケティングなどを勉強しているという。しかし、あまりマトをいた意見や、ビジネス面に精通している感じは伝わってこないので、僕は一人不信感を抱いていた。その日は、今後2日の予定と、方向性のみを定め、あとは次の日までにできるところまでプロダクト開発を進め、彼女にはビジネス面をお願いした。

家に帰って早速開発に取り掛かる。5畳くらいしかない戦時中の潜水艦の監獄のような部屋に、ルームメイトと二人で暮らしている。部屋には無感情な二段ベットと机と椅子が二つずつ与えられている。ルームメイトは今回のハッカソンには参加していなかったが、たわいもない会話で僕の徹夜作業の会話相手になってくれた。
「ねみー」
ブラックコーヒーを片手に画面に向かう。コーヒーの苦味が部屋の中に充満し、目が覚めてくる。微量のカフェインが無意識の中、脳に錯覚を起こさせ集中力があがってくる。と同時に、僕は違和感に気づいた。チームメイトのエストニア人が信頼できない。チームメイトを信頼できないのは致命的なことだ。しかし、誰に何を言われても信頼できないのである。これは僕が日本人だからなのか、単に人に頼めず自分でやってしまう性格だからなのか、それとも人間不信。結局その夜僕は、結局その夜はコーヒーを三杯程度を口にし、プロダクト開発とビジネス面のマーケティングやファイナンスなどのまとめを、せめて明日スムーズに作業及び議論ができる程度には一人でやってしまった。コーヒーの匂いが部屋まだ部屋にかすかに残っていた。

次の日は朝から会場に向かった。
「あれ。まだ誰もきてねーじゃん」
チームの中で、最初にきたらしい。スーパーハカーは体調不良で昼頃くるという連絡を受けたが、エストニア人の方は音信不通だ。ここで昨日抱いた違和感と不信感が確実なものになっていったが、僕はなぜかそれを望んでいたのかもしれなかった。仕方がないので、昨日の作業部屋に行って一人で自分のMacBookの前で作業を進めていった。同じ部屋では、昨日と同様にもう片方のチームが勝ち誇ったような笑顔でホワイトボードを使って議論を進めていた。僕には理解のできない文字列がホワイトボードを黒く埋めていた。その中で、僕は一人でやる恥ずかしさと敗北感に見舞われたりもしたが、大好きなボーカロイドとFuture Houseの音楽を聞くことで気分を誤魔化した。人間の生身の声を聞くよりも、人工的な機械の声を聞くほうが心の位相にマッチし、気分を上げてくれる。

気づいた時には昼食の時間になった。スーパーハカーと合流できたが、同じチームであるエストニア人の女の子をもう一度そのイベントで見ることはなかった。そもそも最初からやる気がなかったのか、僕らのチームでは承認欲求が致されないと感じたのか、それでも僕は彼女が無言でチームを抜けたことを残念だとは一瞬も思わなかった。その後も、まるで最初から彼女が存在していなかったかのように時間はいつも通りのペースで進んでいった。

昼食から夕方にかけての時間、たまたま近くにいたジョージア人の女性と話す機会があった。どうやら会場になってる大学に通う学生でデザイン系だという。今ハッカソンに参加している趣旨話すと、アイデアを気に入ってくれたらしく、ぜひチームに入れてくれという流れになった。ちょうど一人空きができてタイミングだった。こちらとしても助かる。そこで開発は僕らジャパニーズが行い、ビジネス面を任せることにした。とはいえ、昨日の夜ビジネス面もある程度まとめてしまっていたので、それを彼女に渡し推敲してもらう程度だ。

問題だったのは、開発の方だった。思っていたよりも開発途中でいくつもの難点にぶつかりスムーズに進まない。
「俺、絶対エンジニア職にはつきたくねーわ」
と僕は吐露したりも見せた。結局その日は夜遅くまで会場に残ったが、終わる目処は立たなかった。目はカラッカラに乾燥し、頭には血が巡っていない。脳筋の僕にとっては最悪な状態である。
「俺の家でやらない?」スーパーハカーが僕に提案してきた。
「そうだね。そのほうが捗るでしょ」とそれに僕は同意し、カバンに荷物をまとめ小雨降る寒空の下、彼と彼の家に向かった。家に向かう途中のバスでは、ハッカソンには全く関連のない日常的な話が弾んだが、お互い疲労のせいか言の葉に力はなく、まるでパンクしたサッカーボールのように重く重力を感じて落下していった。彼の家に着いてからもやることは同じだ。画面の前に夜の街灯に集る虫みたく張り付き、マリオネットのようにキーボードを叩く。キーボードを叩く無機質な音と、クリックの単調なつまらない音だけがエストニアの寒い夜に微かに振動させていた。

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